ありのまま「自分らしく」 プラスサイズモデル・桃果愛さん(熊本市出身) 美の多様性、活躍幅広く
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11月上旬、東京のスタジオでカメラの前に立つ女性の姿があった。真っ青なドレスにピンク色の髪。モデルの桃果愛さん(35)=熊本市出身=はひときわ目を引くふくよかな体形で、次々とポーズを決めた。身長160センチで洋服のサイズは3~4L。桃果さんは体が大きな日本人初の「プラスサイズモデル」で、そのモデルを集めた事務所「GLAPOCHA(グラぽちゃ)」の代表も務めている。 幼い頃から体が大きかった桃果さん。看護大3年時に実習のストレスからうつ病になり、薬の副作用で体重がさらに増加した。「デブが歩いている」などと言われ、人の視線に耐えられなくなった。 転機は看護師として上京した23歳のとき。カタログ通販大手が運営する大きいサイズ専門のブランドが募集したカタログモデルに採用された。桃果さんの写真を見た人からは「体は大きくても、モデルとして楽しめるんだ」などとコメントをもらった。モデル活動が自信につながり、視線を気にすることが少なくなったという。
欧米を中心にありのままの姿を受け入れる「ボディーポジティブ」という考えが広がっている。ヘルスケア企業のマーケティングを支援する「ウーマンズ」(東京)によると、2012年ごろ「実現不可能な美の基準」への批判が集まったことで始まったとされる世界的なムーブメント。体形にとどまらず、多様な人種、年齢などの女性が支持され、ステレオタイプな美の基準からの解放が叫ばれている。 同社が運営するヘルスケアビジネスメディア「ウーマンズラボ」の星ノ矢子[やこ]編集長は「ボディーポジティブは、年齢や障害の有無などにとらわれない美しさを示すきっかけになった。自己肯定感を高めようとするブームで、日本でも広がりを見せている」と話す。 若い女性を中心にした「痩せ志向」は行き過ぎたダイエットによる健康被害を生み、拒食症のモデルの死亡は社会に衝撃を与えた。フランスの高級ブランドは17年に痩せすぎたモデルをファッションショーや広告に起用しないと発表。日本でも化粧品ブランドやスポーツ用品大手が、プラスサイズモデルを起用する動きも出ている。
一方、日本では東京五輪開閉会式の演出を巡り、統括役の男性がタレントの渡辺直美さんの容姿を侮辱する内容を提案し、辞任に追い込まれた。大会が多様性や共生社会を掲げる一方で、体形や容姿に基づく社会の“評価”は変わらず残る。星ノ編集長は「痩せている人を美しいとする考えは根強く、摂食障害などの問題を引き起こしている」と警鐘を鳴らす。 「グラぽちゃ」には10~60代の男女約50人が所属。雑誌やカタログにとどまらず、テレビや東京ガールズコレクションなどにも出演し、活躍の幅を広げている。7月には化粧品メーカー「シュウ ウエムラ」が、桃果さんを広告モデルに抜てきした。 所属モデルの優愛[ゆあ]さんは「太っている人は醜いと思っていたが、モデルを始めてありのままの自分を受け入れてもらえ、前向きになれた」。クリスさんも「自分にしかない美しさがあると、自信を持って言えるようになった」と胸を張る。 内閣府が18年に実施した「若者の意識に関する調査」では、容姿に「誇りを持っている」は「どちらかといえば」を含め約3割で、諸外国と比べ最低だった。
桃果さんは言う。「SNS上で他者と比較したり、心ない言葉に傷ついたりすることもあったけど、ありのままの自分を認め、自分らしく生きていきたい」